(「相手を伸ばす!教え力」斉藤孝著、㈱宝島社出版 より)
<1.教えるということ>
①「教える」事の目的:生徒・教えている相手が「できるようになる」こと。
「できるようになる」を更に細分化すると、
「段取り・コツ・良し悪しの差などが理解でき」
「実際に行なうことができる」こと。
そしてそれらを
「言語化し、他人に伝えることが出来る」
(=他人を教えることができる)こと。
またもう一歩進んで、
「自分で自分を伸ばせるように仕向けていく」
「自分で創意工夫して更に良くしていけるようになる」
その仕組みと姿勢作りを指す。
②「教える」事の中心は、「練習させる」。
「練習量」→「上達」→「練習の質的変化」→「練習量」→「上達」→…
苦しい、楽しい、ツライ、ラクだ、は二次的要素。「やった」「できた」「分かった」という充実感が生まれるかどうか。
優れた練習メニューを、繰り返し飽きさせずにやらせることができれば、学ぶ側は必ず上達する。
③教える側の姿勢。「情熱(Passion)!」
「何としても力をつけさせるんだ」という覚悟で腹をくくること。それは必ず相手に伝わる。
「教える側の気力」を受け取る側は敏感に感じ取る。情熱、活性度、習っている物事に対する興味や意識を高めるには、まず教える側がそれらを体現しなければならない。
→そのために:教える側の「情熱(=憧れる力)」「憧れ続け、学び続ける熱意」が大事!
学ぶ側のモチベーション=教える側が持つ「情熱」に引っ張られる。
教える側が「コレが好きで好きでしかたないんだ!!」と憧れている状態。
その教科、事柄、話題に対して先行者として憧れ続ける姿勢を見せ付けること。
教える側もそのテーマについて学び続けること。それも教わる側の何倍もの速度/深度で学び続けていること。学び続けるための投資を惜しまないこと。(e.g.過去1ヶ月でどのくらい本を読んだか。)
「のめり込んでいる人の話は非常に魅力的である」
それゆえに「いま自分が伝えようとしているのは、世の中でもっともエキサイティングなことなんだ!」「知らないで過ごすのは一生の損だよ!」と断言できる。
教育者が「何かに向かって突き進んでいるベクトルの方向性と圧力」、これが生徒への最大の刺激となる。
(その憧れを全身で示すことも必要。内に秘めていては分からない)
仮に実力がなくても、憧れのベクトルは見せられる。反面教師っぷりを見せながら、「できたらもっと良いよね」と成長を促す。
=極論だが、実力がなくとも良い教師にはなれる。
もしくは、「俺はこの人に憧れている!」と自分が憧れる対象に憧れさせる。
④学ぶ側の構えを作る。
まずは体の構え。
脳みそのテンポを上げる→「一分間揺さぶり体操」(膝の屈伸を使って身体をひたすら上下に軽く動かす)
落ち着いてかつ積極的な姿勢作り→「長息呼吸」(3秒吸って2秒止めて15秒で吐く)
これで停滞した、集中できない体勢から解放される。
⑤相手の足りない要素を見抜く「眼力」と、適正な「評価力」を身につける。
まず、相手がどんな能力を伸ばす必要があるのか見抜く「眼力」。それはすなわち、「良い状態とはどんな状態か」「良いものの中の優劣」が分かっていること。また「色々な観点で良し悪しを測れること」。複眼的な評価眼力をもつこと。
e.g.アイディアが豊富、資料集めが早い、整理が上手、プレゼン秀逸、人の力を引き出す、…それぞれのタイプに、それぞれの理想型を見つけ、その目標に向かって進めるよう導く力を養うこと。それには、色々なタイプを見て、それぞれの良いところに憧れることが大事。
「人を見て法を説く」
そして客観的な/的確な評価を与えるべき。最低必要条件=「相手を成長させるため」に評価すること。相手が良くならない・良いところまで潰してしまうならば、評価する意味がない。
「今はここができていない」「最良の状態と比べると、ここは良いがここが不足している」と仕分けし、評価する。
相手がやる気を無くさないような言い方で、良いところ、改善が必要なところを伝える「コメント力」を持つ。
「全部駄目だ」と思わせないために、どこが悪く、どこが良いかをきれいに切り分けて示すこと。
一番まずいところはどこなのか、病原を探る。それ以外の部分を分離して診る。
=「全部駄目だと思っていたのが、実は一部分だけで、集中的にそこをトレーニングすれば何とかなる」と思えるように。評価が、成長へのきっかけとなるように。
「企画は今ひとつだけれども、情報収集は上手いだろう、プレゼンは上手じゃないか、じゃあこの部分はどうだ」と丁寧に診ていく。すると必ず悪い箇所は割り出せる。
「全部が悪いように見えても、どんどん範囲を狭くしていくことにより、震源地を探り当てることができる。その際に、対話的な関係で震源地を探すというやり方があるのです。先生だけで見抜けることもありますが、対話しながらのほうがはっきりします。
相手と対話しながら、良し悪しを評価していくことによって、教える側が持っている評価力を相手に伝授することにもなります。」
全実績を見て評価する:これまでのその部下の全仕事を見たときに、種類分け・ランク分けができて、いわば地図が描けることが大事です。これまでの部下の実績をマップにおいてから細かく分類して見ていく。すると、「ああ、この仕事は相対的に見るとかなり良いよ」「昔の仕事だけれど、あのときのアイディアは良かったね」「この領域に良いのが固まっているね」というように分かってきます。
確かに悪いところがあっても、地図によって全体が見られるようになると、教える側、学ぶ側ともに冷静になれるのです。
分析屋=悪いところを見つけて指摘する。悪い細胞に思いっきりメスを突き刺して、患者を殺してしまうようなもの…。それを言って本人が良くなるのか?
別の部分を意識させることで結果を良くする。
その上で、できていない部分を強化するためにはどんな練習メニューが必要か、効果的かと考え、学ぶ側と協働する。
評価力:
客観的な評価の基準を明確化する。目標をはっきりさせる。良い領域も、改善の必要な領域も、評価し仕分けすれば、自ずと「自分に欠けている物はこれだ」と学ぶ側が分かるようになる。
⑥優れた練習メニュー=「優れた素材(テキスト)」なしに成り立たない。
身に着けるべき能力を、学ぶ側が自分で悟れる、意識できるような素材。「気付き」を与える素材。「良い状態」を示す素材。「悪い状態」を浮き彫りにする素材。ケーススタディ(自社・他社)他。
そうした「素材」を日夜探し、分野・業界・メディア・時代を超えたテキストを発掘し、使えるようにしていく。そのレパートリーの多さが「素材力」。
気付かせる「テキスト」実践編
e.g.:言い訳が多い子どもを、もっと言い訳がましい奴と組ませて作業させる。すると当人も「あれはみっともない…」と気付く。
e.g.2:仕事ができない人を、もっと仕事ができない人と組ませる。次に、仕事ができる人と組ませる。すると「ああ、なんていい状態なんだ…」と気付きにつながる。良い・悪いを比較できるようにし、その良い状態を感謝できるように成長を促す。
⑦ライブ能力。素材を最大限に活かす法。
問いかけを発する「発問力」:相手に考えさせる質問、or ポンポンと答えていける細かい発問を投げて意識の活性化を。
「さっきのはここが良かった」「さっきのはここがいけなかった」と的確に指摘するコメント力も必要。
<手法>
偏愛マップ=自分の興味関心のカテゴリから、更に踏み込んで具体的な作品名・どんなシーンが・出演者/競技者名・地名・固有名詞・レストランのメニューに至るまで、自分の偏愛を隠さずマッピングして、相手と交換して話す
教える側ははっきり言う。
「自分は君を上達させるためにいるのであって、君を個人攻撃をするつもりは全くない」
「厳しく言うことがあっても悪意なんかない、誤解しないで!」
「期待しているから言うんであって、期待していない人には、厳しいことを言うと自分が嫌われるだけで損だから言わない」
「僕を嫌いになったって、君たちは伸びないんだから、そういう無駄なことはしないように」
「厳しいことを言うけれども、君たちがそれに対して発奮して、やる気を起こして欲しいがために言うんだ」
と明確に伝える。生徒と教師がなぜこの場にいるのか、原点(共有点)に引き戻す。
「面白くない仕事はあり得ない」:面白くなく仕事をする人がいるだけであって、どんな仕事でも面白くできる。楽しく仕事をしている姿を部下に見せること。
万が一、教えなければならない業務/範囲が必要悪(=単純な事務処理/経理処理…)である場合、どうしたら効率よく、ストレスなしでできるかのコツを教えていく。→部下にやる気を起こさせる/維持させるために。
モチベーションを維持・高めるために:常に「自分が伸びている」という感じを持たせる。そのためにできる範囲で少しずつ難しい仕事を与えていく。
プロジェクトチーム(部署横断的チーム)による教育が望ましい。直属の上司・部下の関係でなく(昇進などの利害関係…)、斜めの関係で話ができ、憧れる対象を見つけることができる。
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