後藤 秀孝
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JAPAN
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【一大事だぜぇ】
2012-07-03 Tue 00:18
「おい、白人女が俺たちの聖地を汚しに来たって本当か?!」
27を数えたばかりの商人階級の若者、ゴメスが集会で声を荒げた。周りには同じ商人会に属する古老や地主、自治体の中心となる若者たちが集まっていた。

ざわつく群衆を鎮め、長老たちが口々に語り出す。
「ああ、どうやらそうらしい…。カーリーガートの傍で、ハリジャン(不可触民)だの路上生活者だのを看取っているそうだ」
「そうなると死者で周囲の家も、神聖な神殿も汚染されてしまう」
「それだけじゃない。奴らはキリスト教徒で、真の狙いは住民のキリスト教化だと言うんだ」

集まった群集は互いに眉を寄せて、
「由々しき問題だ…」
「手をこまねいて見ているわけには行くまい…」
と呟いていた。


するとゴメス以下、血の気の多い若者たちが立ち上がり、
「じゃあ俺が行って奴らを追い出してやる!」とのたまい、
少数の穏健派の言葉を退けて、勢い込んで集会から離れて行った。


市の中心部を抜け、埃っぽい街路をほうきで掃く老婆―――…ただ埃を巻き上げるだけ―――や、野良牛などと通りすがりながら、ゴメスら約15名は義気に燃えて足早にカーリーガートへ向かった。そこは母なるガンジス川の傍、死者を焼きガンジスへと還す聖なるガート(焼き場)なのだ。その傍で異教の伝道など、外人に好きにさせていいわけがない。

そうこう言っている内に、その場所に着いた。看板などない、単なる古い造りの2階建て一軒家に見える。
「俺たちはモブ(暴徒)じゃない。だから正々堂々と行く。」ゴメスはそう言って、隊を二つに分けた。
第一のチームは、宣誓と交渉に。大儀名分はこちらにあることを示し、交渉して追っ払えればそれでよし。
それでも駄目なら第二のチーム、実力行使の隊だ。彼らはどこからか既に棒切れや鉈などを持ってきている。即流血の惨事、は無いにしろ、用心と同時に威圧の効果を狙う。

第一のチームにはゴメスはじめシャザード、アリら理性派が4名。ドアの前で武闘派と別れ、不届き者のクリスチャンたちを絶対に追い出して見せると誓った。
そして彼奴らが「ニルマル・フリーダイ(聖母の汚れなき御心)」と呼ぶ施設の中に入っていった。






玄関を抜け、少し入ると。

そこは、ひっそりとした大広間であった。

所狭しとベッドが並び、白いシーツに老人や病人らが寝かされていた。
彼らの枕元には小さな札があり、その病人の名前と、信ずる宗教の名前が書かれていた。

収容された「死を待つ人」はすべて、
疲れ乾き切った身体を沐浴させて貰い、
清潔な寝台で身体を伸ばして横たわっていた。

そこここで白と青で彩った修道女が見え、
ベッドに横たわる人々の口に耳を寄せ、
その話を聴き、
また食事をスプーンで口に持って行く姿が見られた。

すべて厳かに、しかし愛情をもって、行なわれていた。

と言うのも、横たわる老人や傷病者の表情があまりにも穏やかだったから。


「何でわざわざ、死んで行く人々に施しているんだろう…」
そう思い、手近なベッドで顔を見上げている老人に話しかけた。彼の札には「宗教:ヒンズー教」と書かれていた。

この施設で働いているのはいったい何者か、という問いに対して、老人は
「彼女たちは、マザー・テレサという方と共に働く、修道女たちです」と告げた。

ここへ来た理由は、と聞くと、モハメドと名乗った老人はこう応えた。
「ここに来る前、私は大病を患い、家賃を滞納したが故に大家の怒りを買いました。
『お前がここで死ぬと、不浄な訳アリ物件となり内装を全部やり直さなければならん。だからどこかで勝手に野垂れ死ね』
と言ったのです」
「そうやって男二人に抱えられ、文字通り道路に放り出されました。
それ以後私は、路地裏の冷たい地面で物乞いをする羽目になりました」

「病状は悪くなるばかりで、空腹のため意識も朦朧としていた時です。私に呼びかける声を聞いたのは」
「大丈夫ですか、息がありますか…そんな風に肩をさすりながら、話しかける女性がいたのです。私が目を開け、しかし乾いた唇からは何の言葉も発せられずにいると、その女性について歩いていた男性がリクシャーを呼び、私をここまで運んでくれたのです」

「私はガネーシャを信仰するヒンズー教徒ですが、ここの修道女たちはヒンズー教の祈りをいっしょに口ずさんでくれます。また、ここに出入りしている業者から聞いたことですが、ヒンズー教徒はしきたり通り遺体を焼いて、ガンジスの流れに戻してくれるそうなんです」
「…大金がかかるため諦めていたヒンズー教の葬儀も、なぜかこの施設では許され、援助さえされているのです」

老人の周辺からは、肯きと同意をしめす声が上がっていた。
それはそれはか細く、静かな声であったのだが。


開かれた眼で見渡すと。
50人を超える傷病者を、わずか5名ほどのシスターたちが支えている。

彼女らは耳をそばだてて病人の声を聴き取り、メモを残している。
食事の準備も進めながら、シーツを洗い、毛布を干した。
けが人の傷を洗い、包帯を代え、
発熱した患者の額に濡れタオルを置き、
痩せ衰えた老婆の下着を交換した。


そして、一番驚いたことは。
顔が土気色となり、
もう息を引き取ろうとするムスリムの老人の手を握り、
ベンガル語で低くコーランを読み、
老人を看取る修道女たちの姿だった。


「俺には、できるのか」
「ここまでの奉仕が、できるだろうか」
「見ず知らずの、特に路上生活者やハリジャンに対して…」

「俺は路上で喜捨をと手を伸ばす貧者に対して、自分の徳のために施しをしたことはある。
しかし自分の業の深さゆえ、この世で苦しみに苦しんで死んで行く彼らに、
ここまでしようなんて思ったこともなかった…」




その場所には、「死を待つ人の家」という悲壮感、
絶望、孤独、死に逝く者の叫び、ではなく…。

汚れた人間の臭気や糞尿垂れ流しの劣悪な介護環境、でもなく…。

介助者の作為や思惑、思想の押し付けさえなかった…。


偏見から来る懸念、そんなものは実情を見ることで払拭されてしまった。

傷病者を抱く大きなホールには、静かなときが流れ、
窓から細く光が差し込んでいた。

一時 義を振りかざした若者たちは、
その場に漂う不思議な安らぎを感じ取っていた。




ゴメスとその同行者がドアから出てきたとき、興奮した第二派のチームメンバーは聞いた。
いったい中はどんな様子で、交渉はどう進んだのかを。


ドアを背に、ゴメスはあっさり告げた。
「マザー・テレサやシスターたちをカーリーガートから追い出すこともできる。

でも、条件付きだ。

もし俺たちが、また俺たちの家族が総出で、

彼女たちのやっていること、つまり
毎日死に逝く老人や傷病者たちの面倒を看ることができたら、

追い出そう、って話だよ」


若者のグループは「死を待つ人の家」を離れ、
二度と争い目的でそこへ近づくことはなかった。
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