とあるホテルの玄関口で。
口論になった男性客の内一人が、ポケットから小型ナイフを取り出して相手の胸を突いた。
怪我自体は大したことはなかったが、
その刺突行為があまりに迅速、
かつ急所を狙った打撃であり、
そして何より
むき出しの殺意を伴って放たれた為、
相手はパニックを起こし、救急搬送された。
事後、傍らにいたホテル客、またその支配人は、
やはり殺意に当てられ、
ある人は恐怖し、
ある人は憤り、他者にも苛立ち易くなり、
喧嘩や口論が増えた。
普段は落ち着いた支配人も、
少しのことで感情を露にしてしまうほどの
精神的な負の磁場が、そこに形成された。
【まれな出来事ではあるけれど】
支配人にとっては、年に一度か二度、あるか無いかの出来事であったが。
その精神的打撃の大きさを感じるには十分な経験だった。
そして、支配人は知っている。
彼の同僚で、更に困難な状況に置かれている方を。
その方の担当するクライアントは、
希死念慮から自傷を繰り返す方。
鋭い刃物を振りかざして、自分を人質にして泣き叫ぶ方。
おそらく、上記のような殺意・狂気。
そうしたものを、同僚は日常的に肌で感じざるを得ない状況に置かれているのだろう。
「誰かが介入し、助けねばならない。」
自分が傷ついたことから、ようやく同僚の苦悩を察することができた支配人だった。
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