後藤 秀孝
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JAPAN
【愛を 知らせるために】
2012-12-25 Tue 10:16
「ヘンリックは生き延びていた。エゴイズムと生存の知恵とを使い分けて、彼は衰弱死していく仲間の中で生き残っていた。ちょうど秋にあらかたの虫が息たえても、まだ動いている生命力のある虫のように…。

(俺はどんなことがあってもここでは死なん)

彼は毎日、自分にそう言い聞かせた。言い聞かせることで自分の力を燃やそうとしていた。

そんな頃、彼と寝台を共にしている男が目立って衰えてきた。顔に白い粉のようなものが吹き出て、皮膚がカサカサになり、腹だけが奇妙に膨らんでくる。栄養失調で死ぬ一歩手前であることはもうヘンリックたちに分かっていた。

やがて彼は作業中、よろめき、貧血を起こし倒れるようになった。カポー(囚人長)が撲り、蹴り、立たせた。ヘンリックはその哀れな姿をシャベルを動かしながら見ていた。



(あの男に、君のパンをやってくれないか)

この時、突然、彼の耳に思いがけぬひとつの声がきこえた。ひくい囁くようなその声は聞きおぼえがあった。コルベ神父(*)の声だった。

(あの男は死ぬかもしれぬ。君のパンをやってくれないか)

ヘンリックは首をふった。今日あてがわれたたった一つのパンを他人にやれば、倒れるのは自分だった。

(俺はいやだ)

(あの男は死ぬかもしれぬ。
だが死ぬ前にあの男がせめて愛を知って死んでほしいのだ)

哀願するようなコルベ神父の声。ヘンリックはその時、八月の夕暮れ、身代わりになるために列外にのろのろと進み出た神父の猫背を思いだした。

ヘンリックはパンをその男にやった。男は目に一杯泪をためて「ああ、信じられない」とつぶやいた。ヘンリックができた愛の行為はこれだけだった。それでもヘンリックは愛を行なった。」
(遠藤周作著「女の一生 二部・サチ子の場合」より抜粋)


要介護度の高い方たち、寝たきりのご高齢者たち、文字通り「終の棲家」として日々暮らされている方たち…。そんな一人ひとりに触れる機会があります。

多忙な日々の中、介護の作業に倦むと私は、上記のコルベ神父の声を思い出すのです。

(あの男は死ぬかもしれぬ。
だが死ぬ前にあの男がせめて
愛を知って死んでほしいのだ)

いつ急変して亡くなるかもしれない。そんな方たち。

恐らく若い頃は
恋愛をして、
仕事にまい進されて、
家庭があって…。

恐らく一人ひとり、
それなりの幸せと、
それなりの苦労と忍耐と、
それなりの人生のときを、持たれてきた方たち。

彼らの最期の瞬間に、立ち会っているのかもしれない。

(あの男は死ぬかもしれぬ。
だが死ぬ前にあの男がせめて
愛を知って死んでほしいのだ)

どうか神よ。
私が触れる一人ひとりに、あなたの大いなる愛を知ってもらうことができますように。

私たち介助者の手を通じて、
その片鱗だけでも、
彼らが感じて安らげますように。

力付けてください。
導いてください。
愛を増してください。主よ。



*コルベ神父:
1894年生まれ。ポーランド人のカトリック神父。
第二次大戦中、ナチスドイツの嫌疑によりアウシュビッツに収容され、連帯責任で餓死房行きを命じられた囚人の身代わりを申し出た。「彼には奥さんと子どもがいる。私はカトリックの司祭で独身ですから。」

その餓死房からは17日間、祈りと賛美の声が響いていたと言う。最期まで神への信頼によりナチスと戦い、信仰と自由、尊厳を護り通した…。

コルベ神父は1981年、ローマ教皇により列聖された。
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